メールマガジン無料登録。がん情報を無料配信中。





 

 



がん治療の「最新」と「標準」どっちがすごい?!

日本人の死因1位を占めるがん。著名人ががんで亡くなった、闘病中というニュースも日々報じられています。がんの克服と治療法の普及は世界の医療界の課題です。折しも20日には全国がん(成人病)センター協議会による、がん患者の「10年生存率」のデータが国内で初めて公表されました。がん治療が報じられる時、誤解されがちなのが「がんの標準治療」という言葉の意味です。治療成績が高いのは標準治療なのでしょうか、それとも「最新治療」なのでしょうか。消化器外科医の小高雅人・佐野病院(神戸市)消化器がんセンター長に聞きました。  

◇「もっと最新の治療を!」と言われることがありますが……  

私は大腸がん、胃がんなどの消化器がんが専門です。治療について、患者さんに「○○さんのがんは○○という状況なので、『標準治療』としてはAまたはBになりますね」と説明することが日常的にあります。すると、患者さんから「そんな標準的なのじゃなくて、もっと最新の治療は無いんですか?」と問われる経験を何度かしました。おそらく、「標準」治療という名称から、その意味を誤解されているのではないかと思います。  

実は、過去の多くの患者さんの治療実績から、現時点で一番オススメの治療法は判明しており、それを「標準治療」という名称で呼んでいます。ですから現在の医療では、標準治療が決まっている状況であれば、治療方針に困ることはあまりありません。ただし標準治療が複数ある場合もあり、その際は、患者さんの状況と希望を考慮し、医師が一緒に相談しながら治療方針を決めていく場合もあります。  

そして標準治療も時代とともにどんどん新しくなります。が、新しくするには現在の標準治療より、 試験治療(標準治療になる可能性のある、実績のある治療)が優れていることを証明しなければなりません。この期待される試験治療と従来の標準治療を比べるテストのようなものを臨床試験と言います。ここでも臨床試験という言葉に「私は実験台になるの?」「モルモット?」などと心配される方もおられますが、現代の医療技術は、基本的に何らかの臨床試験を経て効果や副作用が確認されてきたものです。臨床試験を繰り返して、最善の結果を残したものが標準治療として確立するのです。もちろん、臨床試験は安全性に万全を期しているのは言うまでもありません。  

◇がん治療のメジャーリーガーとは?  

分かりやすい例として野球の世界にたとえてみると、イチローのようにメジャーリーグで活躍し、世界レベルの実績を残しているのが「標準治療」です。そして現在日本のプロ野球で活躍して、これからメジャーリーグに挑戦しようかという実績を作り上げた選手が「試験治療」。そして高校野球で活躍してドラフト1位で指名された選手が、いわゆる「最新治療」です。新聞やテレビで「画期的」などと紹介されることもある「最新治療」はほとんどがこの「ドラフト1位」レベル、つまり開発中、発展途上の治療ということです。ドラフト1位の選手が、全員日本のプロ野球で活躍しているわけではありません。もちろん、イチローもはじめは高校球児であり、日本プロ野球、さらに、メジャーリーグと、実績を積んでいったわけですから、「最新治療」も期待の持てる治療ではありますが。  

別の例として、医者で例えるならば、標準治療=ベテラン部長、試験治療=頼れる医長、最新治療=元気な研修医、という感じでしょうか。みなさんは誰に診てもらいたいですか? おそらくほとんどの人が、「ベテラン部長」と答えられるのではないかと思います。  

つまり「標準治療」は、過去の患者さんたちの臨床試験への協力のもと出来上がった、現時点では「最も優れた」治療になるわけです。がんの標準治療は各学会などがガイドラインなどの形でまとめ、公表しています。機会があれば読んでみてください。


2016/1/24 毎日新聞







Ads by google adsence




次のページへ ページのトップへ戻る 前のページへ